労働安全衛生法2026年4月改正で何が変わる?ストレスチェック義務化は「2026年」ではなく2028年からです
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山田ツール編集部目次
「2026年からストレスチェックが中小企業にも義務化される」という記事をよく見かけますが、これは正確ではありません。50人未満の事業場へのストレスチェック義務化は、2026年5月の労働政策審議会で施行日が2028年4月1日に確定しています。一方で、2026年4月1日に実際に施行されるのは、フリーランスや一人親方を安全衛生法の保護対象に明確に位置づける改正です。混同したまま準備を進めると、優先順位を誤ることになります。
なぜ今、フリーランス・一人親方が保護対象になったのか
今回の改正の背景には、2021年5月17日の建設アスベスト訴訟における最高裁判決があります。最高裁は、労働安全衛生法第22条が労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨であると判示しました。この判決を受けて、厚生労働省は令和4年5月から個人事業者等への安全衛生対策のあり方について検討を進め、今回の改正に至っています。
働き方の多様化も大きな背景です。内閣官房の2020年調査では、広義のフリーランスは462万人に達しています。建設現場や製造現場で、雇用関係にない一人親方やフリーランスが労働者と混在して作業するケースは日常的であり、「雇用関係がないから自己責任」という整理がもはや現実に合わなくなっていました。
2025年5月に成立した改正の全体像
2025年5月14日、労働安全衛生法および作業環境測定法の一部を改正する法律が国会で成立・公布されました。多様な働き方に対応した安全衛生対策の実現を目的とした改正で、主な柱は次の3つです。
- 個人事業者等(フリーランス・一人親方)への安全衛生対策の拡大
- メンタルヘルス対策の強化(ストレスチェック義務化の対象拡大)
- 化学物質の自律的管理の強化
これらは施行時期がそれぞれ異なります。「2026年」「2028年」という日付を混同しないことが、対応の優先順位を正しく立てる第一歩です。
2026年4月1日に施行される内容
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今回の改正で最も大きな変更点は、個人事業者等(一人親方・フリーランス等)を、労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として明確に位置づけたことです。具体的には次のような変更が2026年4月1日から施行されます。
元方事業者の措置義務の対象拡大 特定元方事業者(建設業などの元請け)が混在作業場所で講じるべき指導・連絡調整等の措置について、対象が「労働者」から「作業従事者(個人事業者等を含む)」に拡大されます。これまで曖昧だった一人親方への安全配慮が、法律上の義務として明確化された形です。
注文者の配慮規定の拡大 これまで建設工事の注文者に限定されていた「施工方法・工期等について安全で衛生的な作業の遂行を損なう条件を付さないよう配慮する」規定が、建設工事以外の注文者にも広く適用されることが明確になりました。
偽装請負の懸念解消 元請企業が一人親方に対して安全指示を行うことは、偽装請負には当たらないと明示されました。これまで「安全指示をすると雇用関係とみなされるのでは」という懸念から指示を控えるケースがありましたが、今回の改正でその懸念が解消され、遠慮なく安全指示を行い、記録を残すことができるようになります。
建設業では、この措置義務拡大がより具体的な形で施行されます。例えば、クレーン作業の旋回範囲内や解体作業の危険区域に立入禁止措置を設定した場合、これまでは自社の雇用労働者への適用で足りていましたが、改正後は現場にいる一人親方を含むすべての作業従事者に適用しなければなりません。同様に、足場・手すり・安全ネット・親綱といった墜落防止設備についても、「うちの労働者ではないから」という理由で一人親方の利用を制限することは認められなくなります。
治療と仕事の両立支援(努力義務) 病気の治療を続けながら働く従業員への配慮も、努力義務として同日施行されます。
2027年1月1日に施行される内容
個人事業者等が過重労働によって脳・心臓疾患や精神障害を発症した場合、本人または注文者等が国に報告できる業務上災害報告制度が創設されます。これまで労働者以外は労災の枠組みに含まれず、実態が把握されにくい構造がありましたが、この制度によって個人事業者の労働災害も可視化されやすくなります。
2028年4月1日に確定した施行内容:ストレスチェック義務化拡大
常時使用する労働者が50人未満の事業場では、これまでストレスチェックの実施が努力義務にとどまっていました。今回の改正でこれが義務化されますが、施行日は当初「公布後3年以内に政令で定める日」とされ、確定していませんでした。
2026年5月18日の労働政策審議会・安全衛生分科会において、この施行日が2028年4月1日に確定しています。対象となる事業場は、2028年4月1日から2029年3月31日までの間に最初のストレスチェックを完了させる必要があります。
小規模事業場の実情に配慮し、厚生労働省は2026年度中に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表する予定です。実施者の確保や外部委託先の選定には一定の時間がかかるため、施行の2028年を待たず、2026〜2027年度のうちに体制を整えておくのが現実的な進め方です。
化学物質管理の強化
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同じ改正パッケージには、化学物質の自律的管理強化も含まれています。自社で使用している化学物質について、安全データシート(SDS)を取り寄せ、約2,900の規制対象物質に該当するものがないか確認し、該当する場合は化学物質管理者の選任やばく露低減措置の計画立案が求められます。製造業・建設業だけでなく、清掃・印刷など化学物質を扱う業種全般に関わる変更です。
事業者が今すべきこと:チェックリスト
施行時期がずれていることを踏まえると、優先順位は次のように整理できます。
2026年4月に向けて(現場で一人親方・フリーランスと関わる事業者)
- 現場に立入禁止区域(クレーン旋回範囲、解体作業の危険区域など)を設定している場合、一人親方を含むすべての作業従事者に適用されているか確認する
- 足場・手すり・安全ネット・親綱などの墜落防止設備を、雇用関係の有無にかかわらず現場の全員が利用できる状態になっているか点検する
- 一人親方への安全指示は偽装請負に当たらないことを踏まえ、現場管理者が遠慮なく指示を出し、その内容を記録に残す運用に切り替える
- 建設工事以外の業種でも、注文者としての安全配慮義務が拡大される場合があるため、契約内容や現場ルールを点検する
- 熱中症対策・高齢作業員向けリスクアセスメント・メンタル不調への対応体制についても、混在作業の現場全体を対象に見直す
2027年1月に向けて
- 個人事業者からの業務上災害の報告を受け付けられるよう、社内の相談窓口・連絡体制を整えておく
2026〜2028年度に向けて(50人未満の事業場)
- 2028年4月の義務化を見据え、外部委託先(健診機関・EAPサービスなど)の候補を早めに調べ始める
- 厚生労働省が2026年度中に公表する「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を確認する
随時(化学物質を扱う事業場)
- 使用している化学物質の安全データシート(SDS)を取り寄せ、約2,900の規制対象物質に該当するものがないか棚卸しする
- 該当物質がある場合、化学物質管理者の選任とばく露低減措置の計画立案を進める
なお、記録の有無は今回の改正全体を通じて重要な意味を持ちます。安全対策を実施していても、記録が残っていなければ、裁判や行政調査の場面では「実施していない」のと同様に扱われかねません。「見つける・止める・直す・残す・見直す」という一連のPDCAを、書類として残る形で回す仕組みづくりが、今回の改正への実務的な備えになります。
すでにストレスチェックを実施している事業場(50人以上)は、今回の改正による制度変更は基本的にありません。現行の体制を継続すれば問題ないため、混乱する必要はありません。
フリーランス・一人親方が知っておきたいこと
2026年4月以降、現場での安全配慮を受ける立場が法律上明確になります。元請けからの安全指示は偽装請負にはあたらないため、指示を受けたことを理由に契約形態への不安を感じる必要はありません。むしろ、安全に関するやり取りが記録として残りやすくなる点は、万が一の際の証拠にもなり得ます。2027年1月からは、過重労働による疾病について自ら国に報告できる制度も始まるため、体調の変化を感じた際の相談先の一つとして覚えておくとよいでしょう。
まとめ
2025年5月に成立した労働安全衛生法改正は、2026年4月・2027年1月・2028年4月と、複数の施行日にまたがる大きな改正です。特に「ストレスチェックの義務化=2026年」という誤解は広がりやすいので注意が必要です。実際に2026年に対応が必要になるのは、フリーランス・一人親方を含めた安全衛生対策の拡大であり、ストレスチェックの対象拡大は2028年4月1日に確定しています。自社がどの施行日にどう対応すべきか、この機会に時系列で整理しておくことをおすすめします。
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